きつねこの足跡

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図書館の魔女 第二巻/高田 大介

あらすじ

一の谷は海を挟んで接する大国ニザマの野望のために大きな危機に晒されていた。様々な方法を駆使して一の谷を混乱に陥れようとする勢力は遂に重鎮政治家に刺客を放つ。

高い塔の主にして図書館の魔女マツリカはその頭脳をもって暗殺を未然に防いで見せたのだが、次の凶刃は図書館の魔女にも及び……。

 

登場人物

マツリカ:一ノ谷の高い塔の主にして図書館の魔女。まだ幼い身の上でありながら、魔女の名に恥じない鋭い洞察と推理で、僅かな証拠や手がかりから誰も辿り着けないような真実を導き出す。声を出すことができないので普段の会話では手話を用いる、キリヒトに対しては指話を使って会話することもできる。

 

キリヒト:ある鍛冶の里から図書館に仕えるために一ノ谷へとやってきた。生まれ持った才能と幼いころからの修練の成果で非常に感覚が鋭く、身のこなしも軽やか。その能力を活かしマツリカの声となり彼女の言葉を何一つ漏らさず伝える。

 

感想

キリヒトはこれまで高い塔に対して秘密を打ち明けられないでいました。それは短いながらも親密な時間を共にしてきたマツリカに対してもそうでした。

マツリカや高い塔の面々は裏切られた様な気持ちを拭いきれず憤懣を露わにしていきます。それでも誰よりも悲しそうな表情を浮かべてうつむいていたのは、キリンでもハルカゼでも、そしてマツリカでもなくキリヒトでありました。

マツリカはキリヒトだけが自分の言葉の全てを受け取ってくれるのだと信じていました。キリヒトだけが自分の声になれるのだと信じていたのです。

この裏切りによってそのことに変わりがないのだとしても、彼女の心を大きく揺らして止みませんでした。

マツリカは語られたキリヒトの生い立ちの理不尽にやるせなさを覚えます。

誰が悪いのか、誰のせいなのか。善悪が主語によって変わることを知っている彼女は安易に感情の矛先を向けられません。それが彼女を更に苦しめました。

そしてマツリカは、キリヒトを自分と同じだと思いました。

マツリカが自ら選んで図書館の番人として生まれ育った訳ではないように、キリヒトもまた生い立ちを選べてはずがなく、お互い少年時代を特殊な訓練で塗りつぶしてしまいました。そして誰からも怪物と恐れられるようになってしまったとして、そんな顛末をキリヒトもマツリカも望んでいたはずがありません。

だからこそマツリカは考えてしまいます。そんな怪物を見る様な眼差しを自分もキリヒトに向けてはしなかったか、それが怖くてキリヒトは目を合わせられなかったのではないか。

キリヒトは高い塔に来てからこれまで、どこかで期待し望んでいました。

本当にただのマツリカの声として、いずれは高い塔の司書としていられること。自分の居場所がそこにあることを望んでいました。けれどそんな僅かな願いも打ち砕かれることになってしまったのです。

そんなキリヒトにマツリカは困難な道であるとわかっていながら、寄り添って言葉を紡ぎました。それはきっとキリヒトが諦めた夢の続きを共に目指す為の決意でもあったと思います。

 

好きな場面

第二巻最後の場面でマツリカがキリヒトの手の中に言葉を紡いでいく場面に目頭が熱くなりました。マツリカが何を想い、何を決断したのか、その経緯と優しさが圧巻の心理描写と共に語られています。

 

お気に入り度

★★★★★

マツリカの圧巻の推理や、目に浮かんでくるような情景なども素晴らしいです。マツリカとキリヒトのラストシーンには本当に込み上げてくるものがありました。

たまに王宮を抜け出して街で過ごせる様な穏やかな日々が、二人にずっと続けばなんて考えてしまいます。

 

あとがき

読み終わってから感想を書き上げるまでの期間が一番長かった気がします。色々書きたい気持ちはあったのですが上手く纏められず、何とか仕上げた形です。もっと上手く表現できるようになりたいです……。