きつねこの足跡

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八月の終わりは、きっと世界の終わりに似ている。/天沢 夏月

あらすじ

初恋だった。こんなにも人を好きになることは、この先一生ないだろうと思った。

高校二年の夏、渡成吾は葵透子に恋をした。

心臓の病で彼女が亡くなってから四年が経っても、彼の心は死んだままも同然だった。「交換日記」、二人を繋いだそのノートに成吾は堪らず言葉を綴る。返事などあるはずもないのに、その横の空白を埋めたのは忘れもしない、透子の文字だった。

 

 

登場人物

渡成吾:透子を失って、逃げるようにして地元を去ってから一度も帰らなかった。彼女のことを嫌でも思い出してしまうから。旧友の多仁幸樹から彼女に線香あげてやれと言われ帰省を決意した。現在都内の大学二年生。

葵透子:成吾と出会ったのは高校三年生である。生まれつき心臓が悪く、ペースメーカーによりなんとか命を繋いでいる。普通でありたいと願っているが、居るだけで他人に気を使わせてしまうため他人と関わることを避けていた。明るく人懐こい性格だが、持病に裏付けされた自己肯定感の低さがあり、「自分なんかが」と考えがち。それを救ってくれたのが成吾だった。

多仁幸樹:成吾とは長年腐れ縁の仲だった。彼女を失った成吾のことをずっと気にかけていて成人式に来るように誘った。

感想

この作品は、現在、成吾が体験する不思議な現象と、過去、成吾と透子が出会てから惹かれ合ってお別れするまでの出来事が交互に描かれています。

それが現在の物語の終わりと過去の物語の終わり、つまり二つのクライマックスの波が同時に読者に到達することになり、謎の解決と共に大きな盛り上がりを見せてくれました。

 

初恋の彼女を失って立ち直れないでいた成吾は四年の時を経て、ようやく彼女の死と向き合う覚悟を決めます。彼はこれまで一度も線香をあげたりお墓を参ったりという死人に対する行為を避けてしまっていました。それをしてしまえば、他でもない自分が彼女の死を認めたことになってしまいそうな気がしたからでした。

 

交換日記が過去を変えてくれるのかわからないままでなんとか彼女を救おうとする成吾を見ていると心が痛みました。読んでいる時も、二人に救われてほしいという思いでいっぱいでしたが、最後まで彼女が彼女らしく生き抜いたことが伝わりました。それでも、なんとかならないかと願ってしまいますが、きっとその「選択」が出来る彼女だったからこそ、あんなにも輝いていたのでしょう。

成吾はきっとこの先も透子を忘れることはないだろうと思います。けれどそれは引きずるとは大きく違うことなのです。

 

好きなシーン

成吾が大学生活に戻り、同じ学科の人たちの飲み会に参加する場面が好き、というか心揺さぶられました。一見狂ったように見えるようなことでも、成吾の心を生かしていたのは最後まで透子だったのだなと思い知らされます。そして完全に心が死にかけてしまった成吾が、ある秘密に辿り着いてから物語の終わりまでの展開は、本当に美しいものでした。

 

お気に入り度

★★★☆☆

交換日記だけが過去の彼女に繋がるというのは面白いと思いました。物語の終わり方や伏線回収なども奇麗で、すらすらと読めました。

 

あとがき

切ない終わり方だなと思いました。ご都合主義でも何でもいいから幸せな終わり方が私は好きです。