きつねこの足跡

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図書館の魔女/高田 大介

あらすじ

ある鍛冶の山里で育った少年キリヒトは、王宮の命により史上最古の図書館である「高い塔」、そこの主マツリカに仕えることになる。余人の及ばない洞察力や深い知識を求めて、大陸中の賢者や学者、政治家達が彼女の助言を求めて止まない。そんな「高い塔の魔女」とまで畏れられる彼女はまだ年端もいかない少女であった。その上、多くの言語に精通していながら彼女は自分の声を持っていなかったのだ。

 

登場人物

キリヒト:鍛冶の里の出身の少年で非常に感覚が鋭い。一例をあげると、音だけで詳しく周囲の状況を把握することができる。素直で真っすぐな性格ではあるが、どんな状況にあっても尻込みしない芯の強さがある。

マツリカ:高い塔の魔女と畏れられる声を持たぬ少女。特異な力と言ってもよいほど明晰な頭脳を持ち、誰よりも書物を「深く」読むことが出来る。言動に皮肉が混じることや、少女の外見からは想像が付かない部分も多いが、ふとした瞬間には年相応の少女らしい様子も見せる。

ハルカゼ:高い塔の魔女マツリカに仕える司書の一人。色素を持たない白い肌と髪を持ち、スラっと背の高い女性。物腰の柔らかい性格で、キリヒトの手習いの先生役を受け持つことになる。

キリン:マツリカに仕える司書のもう一人。南方系の出身で艶のある褐色の肌と黒い髪の女性。非常に快活でキリヒト曰く「生意気そう」な印象。

 

感想

現実とは異なる世界のファンタジー小説です。

世界観が作りこまれていて、作中では国や街の歴史のお話が多く出てきます。人物の見かけや表情、あらゆる状況での表現が鮮やかで、世界の光景がありありと目に浮かぶようでした。

 

視点は主にキリヒトからのものが多くありますが、時間軸や人物なども超えて語られるところもあり、神視点で物語が進行していきます。そのことが多くの人物の内情を描いたり、今後の物語の展開への布石を打つことを可能にしており、終始次の瞬間への期待を持ちながら物語を読み進められます。

 

物語の中で「言葉」それ自体に対する考察をマツリカが語る場面がありました。一言で纏めると、言葉は階層構造を成し、不可逆である。という主張なのですがこれがとても少女のものとは思えない程深い洞察で、図書館が世界の縮図であるという彼女の主張の帰結まで理路整然としていました。マツリカの魔女とまで言わしめる鋭さを象徴する場面でもあり、本と本との繋がりを読むマツリカの、言葉と本への姿勢の様なものも垣間見えました。

そして言葉への造詣が深い彼女が、キリヒトの能力を利用してあることを目論むのですが、発想やそれの実現まで本当に魔女さながらでした。マツリカは魔女と畏れられてしかるべき能力を持っていますが、キリヒトも大概とんでもないのでこの先二人がどんなふうに成長していくのか気になりました。

そして第一巻ではキリヒト自身の過去についてあまり描写が無かったので、彼の能力の理由や生まれなどもこの先明らかになってくるのかなと思うとそれも楽しみです。

 

一番好きなシーン

マツリカがキリヒトとの指話を初めて試みる場面で、マツリカが念願の贈り物を手に入れたかの様に年頃の少女らしく興奮を隠せないでいた所がとてもかわいらしかったし、その後でグッと二人の距離が縮まっていたことも微笑ましかったです。ハルカゼが姉弟の様だと形容していたその光景が、作者の表現も相まって鮮明に浮かんできました。

 

お気に入り度

★★★☆☆

少年と少女の物語の始まりとして多くの伏線が張られています。豊かな情景描写や作りこまれた世界観のお陰で、気付いた時には物語に引き込まれていました。

マツリカとキリヒトのコンビがかわいいです……。

 

あとがき

ファンタジー小説には昔から興味があったのですが、いまいち手が出せずにいました。図書館の魔女はなんとなく手に取った一冊だったのですが、とても面白くて喜びまでありました。特に下調べもしないでなんとなしに読み始めた本が案外面白いと嬉しくなりますよね!

キリヒトの感覚を頼りにマツリカが謎を解いたり、マツリカの声をキリヒトが補っていく。まだ若いこのコンビに、この先どんな試練が待っているのか目が離せないですね……。