きつねこの足跡

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ビブリア古書堂の事件手帖2~栞子さんと謎めく日常~/三上 延

あらすじ

ビブリア古書堂の店主である栞子さんと、ある体質から本が読めないが本は好きな五浦さんの二人が、古書にまつわる謎を紐解いていく物語。栞子さんの意味深な蔵書と不可解な電話、様々な伏線を撒きながら静かに物語が幕を開けます。そしてある読書感想文がビブリア古書堂に持ち込まれて……。

 

 

登場人物

篠川栞子:ビブリア古書堂店主にして豊富な古書の知識と鋭い洞察力の持ち主。とても人見知りだが、五浦大輔とはまともに話が出来るようになってきた。物静かでハッとするほどの美人。

五浦大輔:ビブリア古書堂店員、主に古書の運搬など力仕事や雑務で古書堂を支えている。栞子さんから古書についての話を聞くのが好き。異性として栞子さんに好意を抱いているが、彼女についてどこまで踏み込んでいいのか悩んでいる。

高坂晶穂:五浦大輔の高校時代の友達であり元彼女。複雑な家庭環境を抱えている様であり、かつて恋人であった五浦大輔にすら詳しい話はしていなかった。

 

感想

ビブリオミステリ第二弾!前作に引き続き作品のコンセプトは古書の謎を解き明かしていくというものですが、今作の特に大きなテーマは五浦大輔の過去の恋愛と栞子さんの母親についてだと思いました。この二つを軸として感想を書いていきます。

 

大輔は高校時代、晶穂と付き合っていましたが、交際生活を思い返して、彼女のことをほとんど何も知らなかったことに気が付きます。彼女の家庭環境のこと、将来の夢のこと、抱えた悩みのこと。そのすべてを隣に居ながら何も知らなかったのです。

大輔が晶穂のことを何も知らないのは、彼女が自身の悩みを人に話したがらなかったことも大きな要因ですが、大輔自身が彼女に踏み込めなかったことにも一因がありました。共に気持ちを打ち明けられない二人は大学入学から疎遠になり、ほぼ関係が自然消滅していきました。結局付き合ってから別れるまで、どちらも好きだとは一度も口にしなかったなと大輔は回想します。

 

何年かぶりに再会を果たした晶穂はビブリア古書堂に最近亡くなった父の蔵書の買取を大輔を通じて依頼します。そこで様々な謎を乗り越えて、栞子さんは晶穂の父が晶穂に渡したかったある本を見つけ出したのでした。

 

晶穂は栞子さんからその本と箱の中に落ちていたという手紙を受け取ります。その手紙は、晶穂へと宛てたはいいものの内容が一文もないものでした。それを見た晶穂は、父も自分と同じように思っていることを言葉にできなかったのだと気づいて静かに涙を流します。大輔はこの時になって初めて彼女の泣いている姿を初めて見たのでした。

父は晶穂の仕事のことに反対していましたが、最後には、お守りとして自分が一番大切にしていた本を渡すことに決めました。けれど、何と言って渡せばよいのかわからず、手紙を書こうにも何を書けばよいのかわからず、栞子さんでなければ気が付けなかったかもしれない程遠回りな方法で娘に最後の贈り物をしたのでした。

それに気が付いて晶穂が涙した理由は、きっと自分も父に対して本当に伝えたかったことを一度も言葉にできなかったからなのかもしれません。二人はどこまでも不器用でとても似た者同士だったのです。

 

父の不器用な愛情に触れてか、自分の不器用さを見つめ直せたからなのか晶穂は大輔との別れ際、学生時代のことを語り始めます。ずっと大輔のことを見ていたこと、二人で図書室で勉強したことも、二人が付き合っているのではないかとの噂を流したのも全て晶穂自身が狙ってやっていたことだったと告白します。

そうして距離を縮めていって念願かなって付き合えた時、晶穂は自分が抱えていることを誰かに話せない性格だと知ったのでした。

この一連の告白は余りにも遅すぎました。もし付き合っていた時に言えていたなら、彼らは今でも交際を続けられていたのかもしれません。けれどもうやり直すことはあり得ないし、今後も彼らが気軽な友達の関係に戻れるとも思えません。

けれど大輔はその告白受けて、本当の別れ際、よくやく晶穂のことが本当に好きだったと伝えることが出来たのでした。

 

互いを好きだと言い合うには、あまりにも遅すぎたけれど、彼らの告白は決して無意味なものではなかったのだと思います。

誰かに自身のことを話すことも、誰かの心に踏み込むことも、決して簡単なことではないけれど、大切にしたい人とはいつか語り合わなければならない時が来るのだと思います。それが出来なければ、きっと後悔が残るのでしょう。

青春時代の余りのも未熟で不器用な二人の恋愛は、こうして本当の意味で幕を閉じたのでした。

 

そして物語の謎は栞子さんの母へと移ります。

大輔は栞子さんが自分の母親のことを話したがらないことには気が付いていましたが、ある本の謎に栞子さんの母親が絡んでいるとわかると物語は動き始めます。

その本の謎は紆余曲折あって解決したかに見えましたが、栞子さんはまだ何かを思い詰めている様でした。そしてそれは怒りを含んでいるものでもあることに大輔は気が付きます。

大輔はその栞子さんが思い詰めていることに踏み込んでいきますが、母の話などしたくないと強く拒絶されてしまいます。

今までの彼ならば、そこで引き下がっていたかもしれません。

けれど彼は、話したくないことは話さなくてもいいと前置きながら、そういうことを話したくなったらいつでも聞くと続けました。

栞子さんにそれはどうしてなのかとまっすぐに問われたとき、

あなたのことをもっと知りたいからと逃げずに答えられたのは大輔の成長なのだと思います。

そして栞子さんは彼に話すことを決めたのでした。

 

かつて彼女に踏み込めなかった大輔、誰にも話せなかった晶穂と踏み込んだ大輔、話すことにした栞子さん。この関係は明らかに比較されています。

大輔が大切な人に踏み込んでいけたのも大きな成長ですが、栞子さんが話す気になったのも、既に大輔が栞子さんにとって「ただの店員」ではない程信頼されているからだったのでないでしょうか。

 

一番好きなシーン

感想でも長々と書いてしまいましたが、大輔と晶穂がかつての思いを打ち明け合って別れるシーンはとても美しいと思いました。もうどうしようもないけれどそこで初めて二人は正しく終われたんだろうなと感じました。

 

お気に入り度

★★★★☆

栞子さんはかわいいし、どの物語も楽しめました!

 

日記/あとがき

多分このビブリオミステリシリーズは、最後まですぐに読み終わってしまうんだろうなという予感があります。