きつねこの足跡

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アヒルと鴨のコインロッカー/伊坂幸太郎

あらすじ

大学入学の為に引っ越してきたアパートで、椎名は初対面の隣人河崎に「一緒に本屋を襲わないか」と持ち掛けられる、しかもお目当ての品は広辞苑の一冊のみだ。椎名は目的も意味も把握できないまま、あろうことかその提案に乗ってしまうのだった……。

 

 

登場人物

  • 椎名:大学生になったばかりの青年。少し乗せられやすいところがあるが、いたって普通。
  • 河崎:長身で椎名曰く「悪魔」のような男。琴美曰く、顔だけはいい男。人生の目的はより多くの女性と交わることだと豪語している男。ドルジに日本語を教えたがっている。
  • ドルジ:ブータンから留学してきた青年。琴美とは同棲している関係。日本人とは違い少しのんびりとした感性をもっている。河崎から日本語のイントネーションなどを学びたがっている。
  • 琴美:少し正義感と気が強い女性でペットショップで働いている。河崎とは元々交際していたが破局している。ドルジが河崎と関わるのを勘弁してほしいと考えているが、なんだかんだで三人でいることもある。

 

感想

この小説は、現在の時間軸で椎名が本屋襲撃を手伝う場面から始まり、二年前の物語では琴美とドルジがある動物を虐待して殺していると思われる三人組の男女を見つける場面から話が動き出します。この一見無関係な現在と二年前の物語がある段階から急速に接近し、盛り上がっていくという構成でした。

椎名は二年前の物語に途中参加しているという主人公の視点がなかなか興味深かったです。椎名が読者の疑問を汲み取ってその解決の為に行動してくれている様な錯覚すら覚えるほど、椎名と読者の距離は近くて、椎名の視点を借りてより深く物語にのめりこんでいけるような工夫を感じます。勘違いかもしれないですが、なんとなく作品全体に寂しいオレンジ色の夕焼けみたいな雰囲気が漂っていて、なにかきっかけがあればすぐに悪いことが起きてしまうのではないかという不安を感じさせられました。

この物語ではどうしようもない悪として三人の男女が登場します。彼らがそうなってしまった理由や背景はほぼ描かれることはないですが、いかなる理由があろうとも許せない悪です。そんな邪悪となんの因果か対峙することになってしまった琴美が、もう少しだけ自分の恐怖に従える性格だったならと思えて仕方がありません。強い正義感を持って正しいことが出来る人間は立派なことかもしれないけれど、私は大切な人には正しくなくてもいいから生きていてほしいと思ってしまう。残された二人だってきっとそうだったのではないだろうかと、そんな妄想をしてしまいました。

 

一番好きなシーン(ネタバレ注意)

河崎が動物園で、かつてたまたま見かけた姉弟レッサーパンダを盗み出すことに成功している所を見た時に、とても愉快そうに笑い飛ばしていたシーンは、上手く言い表すことが出来ませんがなんか凄くいいなぁと思えました。

これだけ読んでも全然なんのことかわからないと思いますが、読んでみると本当にいいシーンだと感じられると思います!

 

お気に入り度

★★★★☆

前半は謎ばかりでしたが、後半の急展開に頁をめくる手が止まりませんでした!

あとがき

これもネタバレになってしまうのかもしれないので避けたい人は飛ばしてほしいのですが、この作品では衝撃的な叙述トリックが使われていました。私はその種明かしの瞬間もとても楽しかったのですが、どうやらこの作品は映画化されているようです。

文章のトリックは映像作品ではどんな風に表現したのか気になりました。同じ俳優さんを使うのでは、少し味気ない様な……。けど違う俳優を使うわけにもいかないですよね、難しそうです。小説でしか楽しめない驚きだったのかも?